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この回の数字
※ 数字は動画公開時点の公表値です。統計や計画は更新されるため、最新値は各公表元でご確認ください。
① 万博の一年に、乗客は10億人を超えた
まず、過去最高の中身を分解する
2026年5月14日、Osaka Metro Group が2025年度(2026年3月期)の決算を発表した。営業収益2,333億円(前年度比+15.0%)、営業利益528億円(同+30.7%)。会社は決算資料の冒頭で、営業収益・営業利益ともに「民営化以降、過去最高を達成」と書いている。
ここで先に整理しておきたいのが、よく混ざる2つの数字だ。528億円は営業利益で、最終的に手元に残る親会社株主帰属の当期純利益は330億円(+12.6%)。経常利益は508億円。ニュースの見出しでは「528億円」だけが独り歩きしやすいが、この記事では区別して書く。
増えたのは、まず人だ。鉄道の年間乗車人員は10億1,661万5千人(+8.7%)。内訳は定期4億8,356万7千人(+3.6%)に対し、定期外が5億3,304万8千人(+13.8%)。定期外の運輸収入だけで前年より193億円(+20.2%)伸びている。つまりこの一年の増収は、毎日の通勤客が増えたからではなく、ふだん定期で乗らない人が大量に乗ったことで起きた。万博である。
営業利益が404億円から528億円へ124億円増えた道筋も、決算資料に内訳が載っている。プラス側は、鉄道・バス等の運輸収入+233億円、万博バス輸送に係る収入+36億円、不動産・広告収入等+31億円。マイナス側は、万博輸送や保安警備の委託費が▲41億円、車両新造・更新に伴う減価償却費が▲40億円、その他▲28億円。稼いだ分の3分の1近くを、稼ぐための費用が食べている構図が見える。
会場へ人を運んだのは中央線だ。2025年1月19日、コスモスクエアから約3.2kmを延伸して夢洲駅が開業した。会期中は約4,000万人が同駅で乗降し、来場者の7割がこのルートを使ったと報じられている(日本経済新聞)。ただし万博が終われば、そこは元の埋立地に戻る。2025年9月のダイヤ改正で、夢洲行きの本数は7割減となった。
② この会社は、いまでも「ほぼ電車屋さん」だった
「電車の外で稼ぐ会社になった」は、実数では支持されない
民営化した鉄道会社の紹介では、たいてい「不動産や商業で多角化した」という話になる。大阪メトロも駅ナカ店舗を増やし、分譲マンションを建て、広告事業に力を入れている。では利益の内訳はどうなっているか。
| 鉄道事業 | 営業収益 1,966億円 / 営業利益 470億円(利益シェア 89.0%) |
|---|---|
| バス事業 | 営業収益 177億円 / 営業利益 14億円(2.7%) |
| 都市開発事業 | 営業収益 115億円 / 営業利益 27億円(5.1%) |
| 広告事業 | 営業収益 56億円 / 営業利益 10億円(1.9%) |
| マーケティング・生活支援 | 営業収益 134億円 / 営業利益 9億円(1.7%) |
鉄道単体で89.0%、バスを足した交通事業で91.3%。非鉄道の3事業(都市開発・広告・マーケティング)を全部足しても46億円、8.7%にしかならない。
おもしろいのは、この比率が時間とともに下がっていることだ。民営化初年度の2018年度は非鉄道が14.4%、2019年度は14.8%あった。万博で鉄道収入が跳ねた2025年度は、相対的により一層「電車で稼ぐ」年になっている。多角化が進んだから利益が増えたのではなく、電車が忙しかったから利益が増えた、というのが実数の読み方になる。
もうひとつ但し書きがある。2025年度の都市開発事業の利益27億円には、分譲マンション「メトライズ森ノ宮中央」(98戸・2025年7月完売)という一過性の販売益が含まれている。会社自身、2026年度は都市開発の営業収益を115→60億円、営業利益を27→10億円と見込んでいる。非鉄道の伸びを右肩上がりの線で描くのは、まだ早い。
③ 額では最下位、率では1位
「儲かっている」には、2種類ある
大手他社と並べてみる。いずれも2026年3月期の連結決算(各社の決算短信を確認、単位は億円に統一)。
| Osaka Metro | 営業収益 2,333 / 営業利益 528 / 利益率 22.6% |
|---|---|
| 東京メトロ | 営業収益 4,224 / 営業利益 896 / 利益率 21.2% |
| JR西日本 | 売上高 18,458 / 営業利益 1,981 / 利益率 10.7% |
| 阪急阪神HD | 営業収益 12,035 / 営業利益 1,271 / 利益率 10.6% |
| 近鉄グループHD | 営業収益 17,503 / 営業利益 894 / 利益率 5.1% |
額で見れば、大阪メトロの528億円は5社で最小。最大のJR西日本1,981億円の約27%しかない。ところが率に直すと22.6%で5社の先頭に立つ。稼ぐ額ではなく、稼ぐ効率で1位——という整理が正確だ。
そして、この1位には注釈がいる。前年度(2025年3月期)で比べると、東京メトロ21.3%に対して大阪メトロは19.9%。万博前は東京メトロのほうがマージンが高かった。2025年度だけ順位が入れ替わったのは、万博という一過性の要因が主因と見るのが妥当で、「大阪メトロは日本一稼ぐ地下鉄」と一般化するには根拠が足りない。動画でもここは言い切っていない。
近鉄グループHDと阪急阪神HDの利益率が低いのは、経営が悪いからではない。百貨店・不動産・娯楽といった、売上は大きいが利幅の薄い事業を多く抱えた複合企業だからだ。地下鉄に特化した2社と、事業の形そのものが違う。率の比較は、同じ形の会社どうしでないと意味を持ちにくい。
④ 2020年の谷と、「外の9%」が支えた話
非鉄道事業が意味を持ったのは、電車が止まりかけた年だった
民営化から8年のうち、赤字は一度だけある。2020年度(2021年3月期)、営業損益は▲88億円。コロナで鉄道の乗車人員が前年度比▲28.5%まで落ち込んだ年だ。営業収益も1,338億円まで縮んだ。
このときのセグメントを開くと、章②とは逆の景色が出てくる。
| 鉄道事業 | ▲93億円(赤字) |
|---|---|
| バス事業 | ▲18億円(赤字) |
| 広告事業 | +6億円 |
| 流通事業 | +8億円 |
| 都市開発事業 | +6億円 |
鉄道とバスが合計▲111億円まで沈むなか、非鉄道の3事業は合計+20億円の黒字を維持した。全社の赤字が▲88億円で止まったのは、この20億円があったからだ。「電車の外で稼ぐ」は言い過ぎでも、「電車の外が支える」は事実として言える。ふだん8.7%しかない部分が、いちばん効いたのは危機の年だった、という順番になる。
そのあとの回復も速い。2021年度に営業利益39億円で黒字転換し、2022年度191億円、2023年度371億円でほぼコロナ前の水準に戻り、2024年度404億円、そして2025年度528億円。
ついでに一つ、意外な数字を置いておく。営業利益率でいちばん高かった年は2025年度ではない。民営化初年度の2018年度で25.4%(営業利益473億円/営業収益1,862億円)。過去最高の「額」と過去最高の「率」は、別の年にある。
⑤ なぜ「来年は減る」と自分で言い切れるのか
減益の内訳は、決算資料にそのまま書いてある
会社が示した2026年度(2027年3月期)の計画は、営業収益2,130億円(▲203億円)、営業利益400億円(▲128億円・▲24.2%)、純利益267億円(▲63億円)。過去最高の翌年に、4分の1の減益を自分から出している。
その内訳が、事業計画資料に橋渡しの形で載っている。
| 2025年度 実績 | 営業利益 528億円 |
|---|---|
| 万博関連収益の減少 | ▲229億円 |
| 万博関連費用の減少(償却除く) | +83億円 |
| 交通その他収益の増加 | +50億円 |
| 都市型MaaS関連費用の増加 | ▲33億円 |
| その他 | +1億円 |
| 2026年度 計画 | 営業利益 400億円 |
減益の主役ははっきりしている。万博関連収益の▲229億円だ。これは景気が悪くなるかもしれないという予想ではなく、イベントが終わったので入ってこないと決まっているお金である。だから会社は迷わず数字を出せる。
部門別に見ると、反動の出方が偏っているのも分かる。バス部門は営業収益177→144億円、営業利益14→1億円。万博シャトルという仕事がまるごと消えるからだ。都市開発部門も115→60億円、利益27→10億円で、こちらは章②で触れた不動産販売の反動になる。
過去最高益の翌年に減益を宣言できるのは、業績の良し悪しではなく、収益の出どころを自分で分解できているから。「良い年」と「続く年」は、別々に読む必要がある。
⑥ 1933年の地下鉄が、2018年に会社になるまで
90年前は、市民のお金で掘られた
大阪の地下鉄は昭和8年(1933年)、日本初の公営地下鉄として梅田(仮駅)〜心斎橋間で開業した。第7代大阪市長・關一が主導した大阪市高速度交通機関計画にもとづくもので、大阪市営交通そのものは明治36年(1903年)の市電に始まる。開業日を5月20日とする記述は報道ベースで、公式ページの記載は「昭和8年」までにとどまる。
それが会社になったのは2018年4月1日。大阪市交通局の地下鉄事業を大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)が、バス事業を大阪シティバスが承継した。公営地下鉄の完全民営化としては全国初である。
会社が公式に示している理由は、感情論ではなく数字だった。公式ページには「乗車人員は社会経済情勢の影響により平成2年度をピークに大幅に減少している」「過去10ヵ年では、一般会計から累計1,724億円を繰り入れている」と書かれている。市の財布から10年で1,724億円を入れ続ける形をやめ、自律的な経営に切り替える——というのが民営化の説明である。
そこから8年で、有利子負債は3,111億円(前期比▲361億円)まで減り、純資産は6,361億円(+366億円)。フリーキャッシュフローは前期▲286億円から+374億円へ、660億円の改善になった。市民のお金で掘られた穴が、いまは自分で穴の維持費を払っている。
⑦ 万博のあとの、次の一手
前進と足踏みが、同時に起きている
まず、確実に進んでいるもの。顔認証改札は2019年11月の実証実験から始まり、2025年3月25日にウォークスルー型として130駅で本格運用に入った(パナソニックとの共同)。改札機にカードもスマホもかざさず通り抜ける方式の商用展開としては、国内でもかなり早い部類に入る。
一方で、うまくいっていないものもある。AIオンデマンドバスは2021年3月に生野区・平野区で始まり、2026年3月26日に大阪市24区の全域へ広がった。ところが先行した4区(北・福島・生野・平野)の2025年4〜9月の利用者は27.5万人で、目標を30〜56ポイント下回っている(レスポンス)。エリアは広がったが、乗る人はまだ計画に追いついていない。
そしてEVバス。万博輸送用に導入した車両でトラブルが相次ぎ、路線バスへの転用を断念した。2025年度の特別損失は総額134億円(前期比+45億円)で、このうち約67億円がEVバス関連——減損37億円+補助金返還引当金30億円——と報じられている。67億円という内訳は報道ベースで、決算資料で確認できるのは134億円の総額までである。
投資の先も動いている。大阪城の東側、森之宮では大阪公立大学のキャンパス整備に合わせて中央線の新駅と駅ビルが計画されている。夢洲では第2期区域(万博跡地)への参画準備が進む。ただし2018年に発表された夢洲駅前タワービル構想(55階・高さ約275m・事業費1,000億円超)については、2026年5月時点の事業計画に具体的な記載が見当たらない。凍結・縮小・仕切り直しのいずれなのかは判断できないため、この記事では2018年時点の構想として扱う。
動画では言い切らなかったこと
12分に入りきらなかった但し書きと、断定できない部分
「528億円」は営業利益であって、純利益ではない。手元に残る当期純利益は330億円。特別損失134億円が効いているため、営業利益の伸び(+30.7%)と純利益の伸び(+12.6%)には差が出ている。数字を引用するときは、どの段の利益かを添えたい。
「利益率日本一」は、2025年度・大手5社での話である。前年度は東京メトロが上だった。万博がなければ順位は入れ替わらなかった可能性が高く、恒常的な地位として語るのは根拠が足りない(推定)。
万博単体の増収額を、会社は明示していない。決算資料の増減要因からは「鉄道・バス等運輸収入 +233億円」「万博バス輸送収入 +36億円」が読めるが、運輸収入の増加すべてが万博由来とは限らない。近鉄グループHDのように「万博効果◯◯億円」と単独で金額を出した形跡は、Osaka Metro側では見つからなかった(未確認)。
EVバス関連67億円の内訳は、報道ベース。複数の媒体で内容が一致しているが、決算資料内での個別開示の文言までは確認できていない(未確認)。
夢洲駅の「1日最大13万人」は、開業前の計画値。実績としての1日あたり最大利用者数は確認できていない。確認できたのは、会期中の累計「約4,000万人乗降・来場者の7割」までである(未確認)。
御堂筋線の開業日「5月20日」も報道ベース。公式ページの記載は「昭和8年」までで、日付の一次記載は見つかっていない。
東京メトロ側にも一時要因の指摘がある。退職給付制度の改定に伴う一時的な利益(約64億円)が純利益を押し上げたとする解説があるが、一次資料での裏取りはしていない(未確認)。一時要因で数字が動くのは、大阪メトロだけの話ではない可能性がある。
2026年9月時点の続報
動画公開(2026年8月29日)の前後で、確認できた動き
第1四半期は、宣言どおり減った:2026年8月5日発表の2026年4〜6月期は、営業収益526億円(▲19.6%)、営業利益135億円(▲20.2%)、経常利益133億円(▲20.5%)、四半期純利益91億円(▲19.5%)。前年同期の万博需要と不動産販売の反動で、約2割の減収減益。章⑤の減益シナリオと整合している。
EVバスの後始末:2026年7月17日、EVモーターズ・ジャパン製のEVバス・充電器の不具合により当該製品の使用を取りやめ、補助金の返還見込みを含め2026年3月期に約67億円の特別損失を計上したと公表。あわせて役員3人の辞任・降格と、新技術導入時のリスク審査強化が示された。
森之宮は本体工事へ:2026年8月4日時点で、大阪城東部地区の歩行者ネットワーク整備が動いている。大阪府が大阪城公園へ渡るデッキのデザインを決定し、8月中旬から本体工事に入った。大阪公立大学「森之宮キャンパス1.5期」、Osaka Metroの新駅・駅ビル、大規模集客交流施設をつなぐ計画。
運賃改定:2026年6月以降、新たな運賃改定の発表は確認できていない。6月29日に鉄道駅バリアフリー料金制度の整備計画の進捗が公表されているが、新料金ではない。
自動運転:レベル4の営業運行開始日を確定させる発表は、現時点で確認できていない(実証段階が続いている)。
夢洲駅の利用者数:万博後の最新値は未確認。この記事では動画と同じく、会期中の累計値までを使っている。
出典・参考
数字は下記の公表資料・報道から。リンクは別タブで開きます
- Osaka Metro Group「2025年度(2026年3月期)決算および2026年度事業計画について」(2026年5月14日)
- 同 決算資料(PDF・セグメント別/乗車人員/減益ブリッジ)
- 大阪市高速電気軌道「民営化の経緯」(一般会計からの繰入 1,724億円)
- Osaka Metro「中央線 夢洲駅 開業について」(2025年1月19日開業)
- Osaka Metro「ウォークスルー型顔認証改札 130駅で本格運用」(2025年3月)
- Osaka Metro「AIオンデマンドバス 大阪市全24区で運行」(2026年3月26日)
- Osaka Metro Group「2020年度決算資料」(PDF・コロナ期のセグメント別損益)
- 日本経済新聞「夢洲駅 会期中およそ4,000万人乗降・来場者の7割が利用」
- 日本経済新聞「EVバス関連損失」(2026年5月・報道)
- レスポンス「AIオンデマンドバス 先行4区の利用実績」(2026年3月)
- 大阪府「大阪城東部地区について」(森之宮のまちづくり)
- 西日本旅客鉄道「2026年3月期 決算短信」(PDF・他社比較)
- 阪急阪神ホールディングス「2026年3月期 決算短信」(PDF・他社比較)
※ 本文中の図解は、上記の公表資料をもとに大阪探検隊が再構成したものです。制度・計画・統計は更新されるため、最新値は各公表元でご確認ください。
よくある質問
大阪メトロの「528億円」は純利益ですか?
いいえ、営業利益です。2025年度(2026年3月期)の営業収益は2,333億円、営業利益528億円、経常利益508億円で、親会社株主に帰属する当期純利益は330億円でした(Osaka Metro Group 2026年5月14日発表)。EVバス関連を含む特別損失134億円があるため、営業利益の伸び(+30.7%)より純利益の伸び(+12.6%)は小さくなっています。
大阪メトロは「電車の外」で稼ぐ会社になったのですか?
実数ではまだ言えません。2025年度の営業利益528億円のうち、鉄道事業が470億円(89.0%)、バスを含めた交通事業で91.3%を占めます。都市開発・広告・マーケティングの3事業を合計しても46億円(8.7%)で、民営化初年度の14.4%より比率はむしろ下がっています。ただしコロナ禍の2020年度は、鉄道・バスが合計▲111億円の赤字となるなかで非鉄道3事業が+20億円の黒字を守り、会社全体の赤字を和らげました。「稼ぐ」より「支える」規模、というのが正確な整理です。
なぜ過去最高益の翌年に、会社は減益を宣言できるのですか?
減益の理由が景気予想ではなく、消えることが確定した収入だからです。2026年度計画は営業利益400億円(▲128億円)で、内訳は万博関連収益の減少▲229億円、万博関連費用の減少+83億円、交通その他収益の増加+50億円、都市型MaaS関連費用の増加▲33億円など(Osaka Metro Group 2026年度事業計画)。実際、2026年4〜6月期は営業利益135億円(▲20.2%)と、この線に沿って着地しています。