まず、動画で12分
サムネイルを押すと、このページのまま再生できます
この回の数字
※ 数字は動画公開時点の公表値です。統計や計画は更新されるため、最新値は各公表元でご確認ください。
① 未達なのに黒字だった、という半年
先に人の数から。ここが逆転劇の出発点になる
大阪・関西万博の会期は2025年4月13日から10月13日まで、184日間。博覧会協会が2025年10月14日に発表した数字(10月23日更新)では、一般来場者は約2,557万8,900人、関係者やAD証保持者まで含めた総来場者は約2,901万7,900人だった。1日平均およそ15.8万人、閉幕日単日は約20万7,800人。経済産業省の成果検証委員会報告書(2026年6月16日)も、総来場者を約2,902万人として引用している。
当初の目標は2,820万人。一般来場者だけで見ると達成率は約90.7%で、たしかに未達である。それでも収支が黒字に向かったのは、前半と後半で売れ方がまるで違ったからだ。
開幕前の前売り券は約969万2,401枚。当時「損益分岐点は1,840万枚」と報じられていたから、この時点の空気は完全に赤字懸念だった。ところが開幕後に評判が広がると販売が加速し、最終的なチケット販売は約2,225万1,054枚まで伸びる。終盤には混雑を避けるため協会みずから販売を絞る場面もあった。政府目標の2,300万枚には約3.3%届かなかったが、開幕前の見立てからは大きく上振れしている。
「目標には届かなかったが、赤字予想は外れた」。この二つが同時に成り立っているところが、この回の入口になる。
② 「最大370億円」は、まだ仮の数字である
黒字の額は、発表のたびに書き換えられてきた
黒字見込みは一度に決まったわけではない。公表のたびに幅が動いている。
| 2025年10月7日 | 黒字見込み 230〜280億円(協会 臨時理事会) |
|---|---|
| 2025年12月24日 | 黒字見込み 320〜370億円。収入は約1,480億円で、計画の1,160億円を約320億円上回った。内訳は入場券が+226億円、ロイヤルティ82億円、ライセンス33億円 |
| 2026年6月16日 | 「最大370億円の黒字」(経済産業省 成果検証委員会 最終報告書) |
184日で割れば、1日あたりおよそ2億円。数字としては十分に大きい。ただし注意したいのは、これが「運営費」という単年度の財布についての見込みだという点だ。会場の解体費や、契約に伴う債権債務の整理がすべて終わって、法的な意味で決算が確定するのは、博覧会協会が解散する予定の2028年3月以降になる。
つまり2026年9月のいまも、公式には「確定した黒字」ではない。見出しになった瞬間がいちばん元気に見える数字の典型で、記事や動画で引用するときは「見込み」の二文字を落とさないほうがいい。
③ 運営費と建設費は、そもそも別の財布
議論が噛み合わない原因の、いちばん大きな部分
「黒字なのに税金が使われている」「税金が入っているのだから黒字は嘘だ」。この種の言い合いは、たいてい別々の財布の話を同じ袋に入れていることから起きる。
運営費は、会期中に会場を動かすためのお金で、計画額は1,160億円。入場券・グッズ・ロイヤルティなどの収入でまかなう。いま話している黒字は、こちらの財布の話である。
建設費は、会場そのものを作るお金で、上限は最大2,350億円。こちらは国・大阪府市・経済界がおおむね3分の1ずつ、それぞれ約783億円を負担している。国と府市の分を合わせると3分の2で、ここは税金だ。
だから「運営が黒字だった」ことと「建設に税金が入った」ことは、両方とも事実として並び立つ。どちらか一方だけを持ち出せば、まったく違う印象の文章が書ける——という構造になっている。数字を読むときは、まずどの財布の話かを確かめたい。
④ 建設費2,350億円 — 2度の増額と、上限内の着地
「膨らみ続けた」印象と、閉幕直前の執行率
会場建設費は、2018年の誘致時点で1,250億円と見積もられていた。それが2020年12月に1,850億円、2023年10月に最大2,350億円へ。当初のおよそ1.88倍で、この2度の増額が万博批判のいちばん大きな根拠になった。
ただし、その後の着地は少し違う。協会が公表した2025年9月末時点の執行状況では、契約済み約2,137億円に執行予定145億円を足して約2,282億円、執行率は90.9%。予備費130億円のうち約68億円は使われず、上限2,350億円の内側に収まる見通しになっていた。
増額の判断が妥当だったかどうかは、ここでは評価しない。ただ「青天井に使い続けた」というイメージと、実際の着地は同じではない、ということは数字の上から言える。
もう一つ、府市の関連負担についても数字が揺れている。2023年12月19日に「1,112億円」と公表されたあと、3日後に「1,377億円」へ修正された。どこまでを万博の関連費に入れるかという線引きが決まっていないと、同じ主体の同じ費用でも額が変わる。次の章の話は、この延長線上にある。
⑤ 「約3,500億円」と「10兆円」— 争っているのは範囲だった
数字が嘘なのではなく、線の引き方が違う
万博そのものの費用は、会場建設費 最大2,350億円と運営費 1,160億円を足しておよそ3,500億円。これが「万博本体」と呼べる範囲である。
一方で「10兆円」「13兆円」といった数字も流通している。これは夢洲の土地造成、地下鉄・道路といった広域インフラ、さらにIR(統合型リゾート)の初期投資 約1兆5,130億円まで全部足した、広い意味での夢洲関連費の試算だ(日経ビジネス)。
賛成する人は3,500億円を、批判する人は10兆円を使う。同じ島を見ているのに話が噛み合わないのは、指している範囲が違うからだ。
この構図がわかると、ニュースの見え方が少し変わる。金額の大小を言い合う前に、「その数字はどこからどこまでか」を確かめる。それだけで、噛み合わない議論の半分は整理できる。
⑥ 経済効果3.6兆円は、利益ではない
「生産誘発額」という言葉を、そのまま読む
経済波及効果の試算は、発表元と時点で数字が違う。経済産業省は2024年3月に約2.9兆円、実績を反映した2025年12月に約3.6兆円。アジア太平洋研究所(APIR)は2026年6月29日に3兆5,121億円としている。
どちらも生産誘発額、つまり社会全体の売上を積み上げた数字である。GDPの増加額でも、税収でも、誰かの手元に残る利益でもない。前提の置き方が機関ごとに違うので、2.9兆円と3.6兆円と3.5兆円を単純に並べて比べることもできない。
そして皮肉な性質がひとつある。建設に使ったお金が増えるほど、この「効果」の数字も大きく計算される。出展者側の会場建設費が2,899億円と想定の2倍を超えたことも、効果の試算を押し上げる方向に働く。
効果がなかった、という話ではない。ただ「3.6兆円儲かった」とは、まったく違う意味の数字だということは押さえておきたい。
動画では言い切らなかったこと
12分に入りきらなかった但し書きと、断定できない部分
来場者数は、2つの数字が流通している。協会が会期通算で発表した一般来場者は約2,557万8,900人。一方、閉幕直前の累計として約2,507万人という数字も広く引用されている(時事)。集計の締めが違うだけだが、記事や動画で混ざりやすい。このページ上部の「この回の数字」は、シリーズの数字帳と揃えて後者を載せている。
チケット販売枚数にも幅がある。本文で採った約2,225万1,054枚は2025年12月時点の公表値で、2025年10月時点の集計としては2,206万9,546枚という数字も報じられた。丸めるなら「約2,200万枚台」が安全なところだ。
下請け業者の未払い問題は、決着していない。万博の工事に関わった下請け業者38社以上が、合わせて10億円を超える代金の未払いを訴えている。被害者会の結成や署名も報じられた。行政側は「当事者どうしの契約の問題」という立場で、剰余金を救済に充てるかどうかの結論は出ていない。係争・交渉が続いているため、当サイトはどちらが正しいという書き方はしない。金額だけを並べれば、10億円は黒字370億円のおよそ3%にあたる。
「真の黒字ではない」という指摘もある。警備費など国が別枠で負担した費用は運営収支に含まれていない。ただし、どこまでを運営費に算入すべきかについて公的な統一基準があるわけではなく、この論点は未確認の扱いにとどめる。
剰余金の使途も、まだ案の段階だ。「先端技術支援」「理念継承」「大屋根リング保存等」に3等分する案が報じられている(読売新聞 2026年2月25日・4月)が、確定は協会の解散後になる。
2026年9月時点の続報
動画公開(2026年8月19日)のあと、確認できた動き
剰余金:運営収支の剰余金は最大370億円の黒字見込みと報じられている(読売新聞 2026年4月22日)。確定は協会の解散後。
公益法人:大阪府市と関西経済界が、剰余金の管理と先端技術支援を担う法人を設立する方針を示した(2026年2月・日経/読売)。2026年6月以降に設立が完了したかどうかは、今回確認できていない(未確認)。
大屋根リング:北東部の約200mを保存し、展望台として改修する方針がマスタープランVer.3.0(大阪市・2026年6月19日)に明記された。改修と10年間の維持で約55億円という見積もりが報じられている(読売新聞 2026年2月25日)。建築物として扱う場合は約90億円との報道もある。
協会の清算:博覧会協会は2028年3月以降に活動を終了し、解散・清算に入る予定(読売新聞 2026年4月27日)。最終決算が固まるのはこのあと。
跡地:万博会場だった第2期区域 約42haの事業者募集が2026年7月3日に始まった。売却予定価格は2026年9月14日に公表予定。この続きは EP06 で扱っている。
出典・参考
数字は下記の公表資料・報道から。リンクは別タブで開きます
- 経済産業省「2025年日本国際博覧会 成果検証委員会 報告書」(2026年6月16日)
- 2025年日本国際博覧会協会「大阪・関西万博の来場者数について」(2025年10月14日)
- 2025年日本国際博覧会協会「会場建設費の執行状況」(2025年9月末時点・PDF)
- アジア太平洋研究所「大阪・関西万博の経済波及効果」(2026年6月)
- アジア太平洋研究所「大阪・関西万博の経済波及効果(続報)」
- 大阪市「夢洲第2期区域 開発事業者の募集」(2026年7月3日)
- 大阪市「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業」
- 全国商工団体連合会「万博工事代金未払い問題」(事業者側の訴え)
- 大阪府「令和7年7月29日 知事記者会見」(行政側の見解)
- 読売新聞「博覧会協会の解散・清算」(2026年4月27日)
※ 本文中の図解は、上記の公表資料をもとに大阪探検隊が再構成したものです。制度・計画・統計は更新されるため、最新値は各公表元でご確認ください。
よくある質問
万博は結局、黒字だったのですか?
運営収支は最大370億円の黒字見込みです(経済産業省 成果検証委員会 報告書・2026年6月16日)。ただしこれは運営費という単年度の財布の「見込み」で、会場の解体費や債権債務の整理まで含む法的な最終決算は、博覧会協会が解散する予定の2028年3月以降まで確定しません。
「万博に10兆円かかった」というのは本当ですか?
数字の範囲の違いです。万博そのものの費用は、会場建設費 最大2,350億円と運営費 1,160億円を足した約3,500億円。一方で「10兆円規模」は、夢洲の土地造成、地下鉄延伸などの広域インフラ、さらにIRの初期投資(約1兆5,130億円)まで合算した、夢洲エリア全体の開発費の試算です。どちらかが嘘というより、線の引き方が違います。
経済波及効果3.6兆円は、儲けのことですか?
違います。経済産業省が2025年12月に示した約3.6兆円、アジア太平洋研究所(APIR)が2026年6月に示した3兆5,121億円は、いずれも生産誘発額=社会全体の売上を積み上げた試算です。利益でも税収でもGDPの増加額でもありません。しかも建設費が膨らむほど数字は大きく出る性質があります。