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青空の下、座って微笑むミャクミャクの大型像
ある人の、ある日の記録 / MASCOT OBSERVATION LOG

ミャクミャク
定点観測記

最初は「なんだこれ」だった。
最後は、待ち合わせ場所になっていた。

👀 観測対象 ミャクミャク(公式キャラクター)
📍 定点 東ゲート広場の大型像 ほか
📈 観測結果 像は不動、人は8.5万→20万

覚えている人も多いと思う。2020年の夏、万博のロゴマークとしてあの「赤い細胞の輪」が発表されたとき、日本中が一瞬フリーズした。SNSは「なんだこれ」で埋まり、誰かが「いのちの輝きくん」と呼びはじめた。正直、自分も笑った側だった。それから五年。気がつけば、会場に着いて最初に挨拶する相手も、帰りぎわに振り返る相手も、あの目玉だらけの何かになっていた。これは、半年間ミャクミャクを撮り続けてしまった人間の、観測記録である。

「なんだこれ」から、
すべては始まった。

整理しておくと、2020年に発表されたのはロゴマークだった。赤い細胞の輪。あの戸惑いの二年後、ロゴから生まれた公式キャラクターが発表され、愛称は「ミャクミャク」に決まった。由来は「脈々と受け継ぐ」の脈々。モチーフは細胞と水。

会期が始まってみると、あの「なんだこれ」こそが最強の武器だったことが分かる。かわいいだけのキャラクターは、見た瞬間に消費されて終わる。ミャクミャクは一回、心に引っかかる。引っかかった分だけ、記憶に残る。

「いざ未来へ!」の台座の上で寝そべるミャクミャクの大型像
東ゲート近くの寝そべりミャクミャク。台座には「いざ未来へ!」。当の本人は、この脱力である。

定点観測、
はじめてしまった。

動画を撮るとき、いつも画面の隅に日付と入場者数を入れていた。あとから見返すと、それは図らずも、ミャクミャク像のまわりの「人口密度の記録」になっていた。

5月9日、入場者8万5千人。9月3日、14万4千人。9月18日、20万人。

半年間、像は一歩も動いていない。同じ場所で、同じポーズで、同じ笑い方のまま。変わったのは、まわりの人間の数だけだった。

閉幕が近づくほど、「間に合ううちに会っておこう」という顔の人たちが増えていく。定点観測というのは、対象を観察しているようでいて、実は対象の“まわり”を観察する行為なのだと、あの像に教わった。

5月、大屋根リングを背にしたミャクミャク像と広場(入場者8万5千人の日)
5月9日、8万5千人。まだ広場に、空の余白があった頃。
9月上旬の夕暮れ、大屋根リングとミャクミャクバルーンに集まる人々(入場者14万4千人の日)
9月3日、14万4千人。夕方の広場から、余白が消えはじめる。
9月中旬の夕刻、20万人が来場した日の広場の人波
9月18日、20万人。像のまわりに、立ち止まる隙間がなくなった。

半年間、一歩も動かずに、いちばん多くの人と写真を撮った。会場のMVPは、案外こいつかもしれない。

会場のどこにでも、いた。

定点の像だけじゃない。歩けば必ず、どこかでミャクミャクに出会った。西ゲートには両手を広げた立ち姿、くら寿司の近くには寝そべり、海沿いには電飾仕立て。

正面の笑顔しか知らなかったから、初めて背中側に回ったときは、少し得した気分になった。背中は、ただの青い丘だった。この無防備さも含めて、公式である。

ミャクミャク大型像の後ろ姿。青い背中越しに広場の人々が見える
背中側は、ただの青い丘。まわりの人だかりは、いつも正面側にできる。
夕方の光を浴びるミャクミャク像と大屋根リング
夕方、大屋根リングと同じ色の光を浴びる。一日でいちばんシャッター音が増える時間。

“動くほう”と、目が合った。

像と違って、着ぐるみのミャクミャクは動く。歩幅は小さく、手を振る速度は、驚くほど丁寧だ。子どもが駆け寄ると、腰を落として同じ目線になる——目が多すぎて、どの目線かは分からないのだが。

周囲の大人たちのカメラの構え方が、有名人を撮るときのそれだった。半年で、あの赤と青はそういう存在になっていた。

公式ウォールアートの前で来場者と触れ合う着ぐるみのミャクミャク
壁画の前で来場者を迎える“動くほう”。手を振る速度が、いつも少しだけ丁寧。

夜のミャクミャクは、
少し違う顔をする。

日が落ちてから、海沿いの遊歩道で電飾のミャクミャクに会った。昼間のポップさが抜けて、深海生物のような静けさをまとっている。

細胞と水がモチーフだと知ってから見ると、夜の姿のほうが「本体」に近い気がしてくる。後ろは大阪湾の夜景。あの像の定位置は、会場でいちばん贅沢な特等席だったと思う。

夜の海沿いに立つ、電飾で光るミャクミャクのイルミネーション像
夜の海沿いの電飾ミャクミャク。昼のポップさが抜けて、深海生物の静けさになる。

閉幕しても、
街で働き続けている。

閉幕からしばらく経った頃、街なかのデジタルサイネージに「EXPO 2025 LAST DAY THANK YOU! OCTOBER 13」の画面が流れているのを見つけた。万博は島の上で終わったのに、ミャクミャクは普通に街で仕事を続けている。

実際、キャラクターのライセンスは閉幕後も引き継がれて、公式グッズの販売は2028年まで続く予定だという。任期の長いマスコットである。

街頭サイネージに映るEXPO 2025「LAST DAY THANK YOU! OCTOBER 13」の画面
閉幕後、街のサイネージで見つけた「LAST DAY THANK YOU!」。仕事は続く。

「なんだこれ」は、
五年かけて「またね」になった。

1970年の太陽の塔も、生まれた当時は賛否両論だったと聞く。半世紀経ったいま、あれは誰かの原風景だ。

だとしたら、あの赤い目玉たちにも同じ未来が来る。50年後の誰かが「子どもの頃、夢洲でこれと写真を撮った」と話すとき、ミャクミャクという名前は、ちゃんと意味の答え合わせを終えているはずだ。脈々と、受け継ぐ。

青空の下、日傘の人波に向かって両手を広げるミャクミャク像の後ろ姿
手を振っているのか、振り返してほしいのか。たぶん、両方。

会場と街なかのミャクミャクスポットは、地図にまとめてあります。

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Observation Log

観測記録、全部見せます。

定点の像から、寝そべり、夜の電飾、街のサイネージまで。半年間のミャクミャク観測アーカイブです。タップまたはクリックで拡大表示できます。

青空の下、座って微笑むミャクミャクの大型像 青空と定点の像。座りポーズは、実は「腰を下ろして話を聞く」体勢らしい。 「いざ未来へ!」の台座で寝そべるミャクミャク像 「いざ未来へ!」の台座の上で、この脱力。 5月のミャクミャク像と大屋根リング前の広場 5月9日、入場者8万5千人の日。 9月の夕暮れ、リング前広場の人波とミャクミャクバルーン 9月3日、14万4千人の日の夕暮れ。 20万人来場日の夕刻の広場 9月18日、20万人の日。空いている地面がもうない。 ミャクミャク像の後ろ姿 背中は、ただの青い丘だった。